Research

分子動力学(MD)シミュレーションや連続体力学シミュレーションなどの手法を用いて,原子・分子レベルからナノ・マイクロスケールにわたる複雑な現象について研究しています.特に,細胞では生体分子同士の相互作用からナノ・マイクロスケールの階層性が生まれ,様々な機能を発現しています.それら相互作用の破綻は,がんや炎症性疾患,神経疾患など様々な病理に繋がります.我々の研究室では,生命現象にみられる階層性や非平衡現象の解明とその生物学的意義を明らかにすることを目指しています.また,生体模倣工学技術への応用にも取り組んでいます.

紹介記事:生体分子の物理〜ミクロな生体分子の動きが、細胞の機能にどう影響するのか〜
https://miraibook.jp/researcher/s23061

細胞膜のダイナミクスと機能

細胞の内と外を隔てる境界である細胞膜は,細胞内外への分子輸送や生体反応場としての役割を果たしており,細胞の機能維持に関わっています.細胞膜は主に脂質分子と膜タンパク質で構成され,動的かつ不均一にドメイン構造が変化する擬2次元場です.そのような場における生体分子挙動やタンパク質−タンパク質,タンパク質−脂質相互作用を研究しています.
プレスリリース「脂質分子クラスターが制御する細胞内シグナル伝達-タンパク質と生体膜相互作用に関する新たな分子機構の解明-」
プレスリリース「生体膜表面に結合するタンパク質の拡散現象の解明-生体膜を構成する脂質分子の新たな役割-」
プレスリリース「秩序相/非秩序相に相分離した細胞膜において拡散するタンパク質のメゾスケール計算手法の開発-不均一場における分子拡散と局在化メカニズムの解明-」

膜タンパク質のダイナミクスと機能

細胞膜に存在する膜貫通タンパク質は,水分子やイオン,低分子を膜の内外に輸送しています.タンパク質の構造変化や分子を輸送するメカニズムを原子レベルで解析してます.

タンパク質の構造変化

溶液中でのタンパク質の構造ゆらぎについて明らかにしました.
プレスリリース「溶媒中でのタンパク質の拡散現象に関する新たな物理法則の解明-タンパク質構造の変化による拡散性のゆらぎ-」

創薬

タンパク質と低分子,ペプチドとの結合に関する研究をしています.
プレスリリース「タンパク質の構造ゆらぎに注目することでタンパク質と薬の結合親和性を評価する新手法を確立-創薬研究への応用に期待-」

細胞内の液-液相分離現象

細胞内では細胞膜のような膜を有さない構造体(非膜性構造体)が形成されます.タンパク質/RNA/水の混合溶液はある条件のとき,液−液相分離を起こします.この現象はポリマーなどの高分子溶液にも共通する現象です.構造体が形成されるメカニズムや構造体内部の構造,分子挙動について研究しています.

特異な水分子

水は地球上の7割,人間の体もほとんどが水でできており,生命と水は密接に関わっています.H2Oという単純な構造をしている水分子ですが,非常に特異な物性を示すことでも知られています.水溶液の示す特異な性質やメカニズムについて研究しています.
プレスリリース「糖水溶液に潜む水分子の特異な振動運動メカニズムを解明-水を通して分子を見る、次世代分子センシングへの応用に期待-」
Academist journal「砂糖水に潜む、水分子の不思議な振動 – ブルーシフトの分子メカニズム解明」

マルチスケールシミュレーション手法

原子1つ1つを扱う全原子モデルによるMDシミュレーションでは,扱える系のサイズと時間スケールに限界がありますが(~10 nm,数100 nsオーダー),精度良く原子レベルの現象を解析することができます.一方,いくつかの原子を1つの粗視化粒子として扱う粗視化モデルを用いたMD計算では,精度は落ちますが,系のサイズと時間スケールの問題を克服できます(数10 nm,数10 μsオーダー).観たい現象に応じた手法を組み合わせたマルチスケールシミュレーションを行っています.機械学習などの手法も取り入れています.
さらに,メゾスケールの動的かつ不均一な場における分子の拡散現象や反応過程を明らかにするためのメゾスケールシミュレーション手法の開発を行っています.
プレスリリース「秩序相/非秩序相に相分離した細胞膜において拡散するタンパク質のメゾスケール計算手法の開発-不均一場における分子拡散と局在化メカニズムの解明-」

熱輸送

溶液中の熱輸送現象を研究しています.

分離膜

カーボンナノチューブやグラフェン膜,外場(電場など)を用いた際に,分子を選択的に透過させる分離膜について研究してます.
プレスリリース「生体から発想を得た分子スケールの水輸送方法の提案-極低エネルギーでの水輸送システムの構築に向けて-」